キングオブコント クィア考

まさかこんなタイトルで記事を書くときがくるとは思っていなかったけれど、ひじょーに興味深いことが起きているので書く。
新感染の感想も書きたいのになー!

さて、こんなものを書く背景はこう。
①9月28日、「とんねるずのみなさんのおかげでした30周年記念スペシャル」で「保毛尾田保毛男」というゲイを思わせる懐かしのキャラを出してきて、ゲイに対する偏見の助長であるという観点をメインに、賛否両論の議論をよんでいる。

②①を受けて、これまで反差別的な言動をしてきた芸人であるウーマンラッシュアワー村本さんが、保毛尾田擁護とそれに連なる「お笑いにおける差別」擁護をしていて、やはり議論をよんでいる。どんな発言かはツイッターで確認してほしい。

キングオブコントはほぼ毎回みてるけど、①②を踏まえると、大変お笑いにおけるクィアの扱われ方に示唆的なものを感じた。つまり、本当に「普通じゃない人間を笑う」ことがお笑いなのか、という。

ので!
クィア考というか、コントの中にある権力関係、「普通じゃない」ことへの差別的視点をメインに、でも私の好み(萌えとか)が大変反映されてるのでそこは注意!

わらふぢなるお 「コールセンター」

ほぼ初見の芸人さんだけど、こう言ってはなんだけど、ボケのスタイルもツッコミのスタイルもとってもスタンダードなコンビだったので、よっぽど精度の高いボケを重ねないと苦しかっただろうね。「ホントに見てる!?」というオチをもっと怖くしたりしたほうがよかったかも、パンチがないというか…。いや、そんな上から意見はよくて。
テレオペもただのふざけた人だし、ふざけた企業人と振り回される客、であんまり権力勾配がないので、あんまりクィア的なものは感じなかったね。強いて言えば「ぼくはブクブク太った豚」くらいかな。

パーパー「卒業式」

初見。ここもだけど、男女コンビ増えたねー。男性の方がかなり特殊なキャラなので、今後バラエティーでどう出ていくんだろう。逆に女性がとても普通(というか大根?わざと?)なのが、いいバランスなのかもしれない。
さて、これはクィアというわけではないのだけど、女性に対して「質より早さ」発言など、「女性を性の対象としてしか見ない男」「女性のレベルを評価する男」という女性が最もヘドでるタイプの男でしたね。でもこれを男性は「モテない男」と「男をキモいと評価する女」という関係でみるわけだし、「モテ」を笑いに持ち込むとすぐこういう話になって、男女を共に幸せにしない気がするよ。

アキナ「バイトの同僚」

アキナ結構好きなんだよねー。だから今回のも結構好き!
普通じゃないという意味では「ちょっと言動が異様な人」を持ち出してるんだけど、これにラベルがつけられない点で、確かに属性ではなくキャラクター個人の問題になっている。でもこの異様な人が秋山くんとは仲良くしようとしていて、秋山くんが素直な優しい子なので、なんか恐怖のなかに萌えを感じないでもない…よね?ね?

GAG少年楽団「幼なじみの恋路」

年取っても三角関係続けてる三人、ほのぼのする…。オチまでほのぼのしちゃったのが惜しかったのかな?斬新だし、もっと評価高くてもいいのに。
さて、普通じゃないのは状況であって、「普通じゃない人」は登場していない。男性が女装しているけれど、笑いを取るためのものでもない。(山ちゃんが「ブス」って言ってたけど、コントの中では決してブス扱いされていない)「男の癖に情けない」はやや気になるものの、相手は思いをちゃんと伝えてるのに答えないのが情けないのは男女に関わらずその通りなので、まあいいか。

ゾフィー「母さんが出てった」

はい、出たよ問題作(笑)。これ、女性がめっちゃ怒ってるだろう。「母さんは飯作る人」「母さんは飯作るのが生き甲斐」「スマホの登録名は飯」最悪でしょ(笑)クズ息子が(笑) 笑いをつけてるけど、私もムカついています(笑)
このコントで「普通じゃない」のは息子で、コイツが「人でなし」だからなんだけど、これを本当に「人でなしを笑う」という構造と呼べるのか?「実際、お母さんは飯なんて思ってるやつはいない」なら笑えるんだけど、実際いるんですよこういうやつ。だから別にこいつは「人でなし」だけど「普通じゃない」わけじゃないから笑えない。これを笑えるのは「確かに、口には出せないけどお母さんは飯的なとこあるよなw」と言えるやつだと思うんですよ。笑われてるのはお母さんなんですよ。母親を見下して笑ってるんです。これが批判される笑い、だと思う。三村さんが「お母さんは飯じゃないから」と言ったのがすべて。
演技うまいし、もっと面白いことをしてほしいと心から思う。

アンガールズ「海」「嫁の元カレ」

アンガールズ、面白いときはマジ面白いけど、今回は爆発しなかったな。海のネタ、ふたりが仲良くてほのぼのするね。
非モテを描いてこれだけ感じが悪くないのはアンガールズの力だと思う。アンガールズが描くのは「非モテ」という「普通じゃなさ」なんだと思うんだけど、なんか自分を最大限にネタにしてポジティブ非モテに昇華してるんだよね。しかも山根さんが田中さんを決して突き放さない。田中さんのキャラをキモいなー、とかかわいそうだな、とかちょっと思いながら、最終的になんか好きになってる。そういう作りができるのが、すてきだとおもう。とはいえ、自虐を使うことで「非モテ」を笑ってもいい、という世の中の感覚を強化しすぎるのも問題だと思うので、そこは考えておきたい。

ジャングルポケット「エレベーター」「組織の情報を話せ」

うーん、好き!今回すごくよかったね!斉藤さんの独特のツッコミがいいよねー。
「エレベーター」のネタ、太田さんの女装…と思いきや男性の役で、トランスジェンダー?なのかな?しかも近親相姦?でも、すごくさらっと出てきたよね。斉藤さんも驚きつつも、二人を変な目で見ることなく応援してる。ぜんぜんトランスジェンダーを笑ってない。すごい。太田さんがかっこよい女で好き。
あと、「組織の情報」ネタはなんとなく映画「新世界」を思わせて組織内の関係性に萌えた。想像力の勝利。(あれ、萌えが全面に出てクィアをあんまり考えてない?)

さらば青春の光「居酒屋の撒き餌」「パワースポット」

私はさらばを推してるので偏った見解になるかもだけど…。今回のネタ、萌えなかったね(笑)
居酒屋はただの商魂たくましい店とそれに振り回される客、まあわらふぢなるおと同じ構造。一方、パワースポットは「不幸なガードマン」が「普通じゃなさ」として出てくる。このガードマンは、「滑舌が悪い」「役者目指してる」「非モテ」などの要素をつけられていて、ここにある種の「バカにする視点」を見いださないでもない。特に滑舌は気になる。正直、このネタは「パワースポットに群がるやつら」を皮肉るのが大きいとは思うんだけど、ガードマンにキャラ付けするその選択を是とみるか非とみるか。ちなみに私は一本目の方が好きだし、さらばにはもっといいネタがあると思ってる。

にゃんこスター「リズム縄跳び」「リズムフラフープ」

ここも男女コンビ。いわゆるシュールをリズムネタと融合させた感じ。すごいと思うけど、正直にいうと、好き嫌い別れると思う。ストーリーがないので、クィア論もできないわ。しいて言えば「姉ちゃん、足がキレイ」はちょっと嫌だけどな!
オチのシュールさも含め、嫌いじゃないけど、特に好きになる理由もないや(シュール系リズムネタあんまり好きじゃないので…。)

かまいたち

かまいたち、面白かったねー!!山内さんを異様な人間として描きすぎるイメージがあったけど、そうでもなかったな。ボケとツッコミ入れ換えるコンビなんだね。
「告白される練習」をする同級生、「視野の狭い店員」、やはり権力勾配がない。強いて言えば、一本目に「体にしまりがない」というルッキズム感があったけど、まあそれはそこまで笑いの中心ではないし、その「締まりがない」と言われる方がもう一方のキャラを恐怖させるという関係性であって、弱者として描いていない。ので、嫌な感じはしなかったんじゃないかな。完全に山内さんのキャラが重要なコンビなんだけど、山内さんを強い立場にもするし弱い立場にもするので、バランスの取れた印象を持たせる、すごいコンビだと思う(ジャルジャルもボケとツッコミを入れ換えるけど、本人のキャラを使っていないので、かまいたちの方が難しいことしてる気がする)。


ということで、これで全部か。長かった。
いかに、権力勾配を用いて「弱者を追い込む」ネタを作らないようにしているか、というのは感じました。まあむしろ、「権力に逆らう」方がウケるんだと思います。多くのコントで店員が客を弄んでるのもそのひとつかもしれない。
そのなかで、「ある要素を笑う」という部分がどうしても出て来てしまっていること、特に「非モテ」がいかにバカにされ、「女性」が人間扱いされていないか、という問題はすごく感じました。

クィア的な要素は、トランスジェンダーがすこし出てきたくらいだったのかな。
ぜんぜん関係ないけど、クィアを積極的に描いてたコンビに「しずる」がいて(今回決勝行けなくて残念だけど)、彼らの「学級会」のネタなんかほんとそれで。あと、さらば青春の光の「校門」のネタも。コントの中のゲイの描かれ方として面白い例なので解説してみる(以下ネタバレ)

しずる「学級会」

生徒のリコーダーをなめた先生(池田さん)が学級会で糾弾されるんだけど、先生が舐めてたのは生徒の村上さん(男)のリコーダーで、好きだったからだとわかり、先生も観念する。結局村上さんも先生が好き、でオチ。これ、完全にゲイを扱ってるわけだけど、少なくとも私は嫌な感じはしなかった。まず、なぜ男性同士なのかって考えたときに、まあ意外性のためなんだけど、権力勾配がないんですよ。まず、先生が学級会で糾弾される、という意外な設定を作っているんだけど、先生の罪に女生徒のリコーダー舐めるという加害を持ってくると、教師かつ男性、生徒かつ女性という力の差が出る訳なんだけど、その差をなくしちゃった訳で、しかも村上さんははっきり学級会で先生を責めており、さらに本人も先生が好きだったわけで、弱いものに性的暴力を振るう「嫌な感じ」を最小限にしてるんです。考えてやった訳じゃないと思うけどすごい。そんで、「ゲイは好きな人のリコーダーを舐める変態じゃない」という反発もあろうかと思うんですが、女の子のリコーダー舐める男の子、というネタは異性愛でやりつくしたわけで、別に同性愛をとりたてて変態にしたんではないと感じます。なんかナチュラルにふたりが両思いなので、こんな描かれ方してもいいじゃん、と私は思ってます。

さらば青春の光「校門」

これは学生服の変態犯罪者とそれをとがめる学校の先生の掛け合いで、まあある意味変態犯罪者が権力として下のように見えるかもしれないんだけど、この犯罪者は32歳の警官という属性をもっていたりするので、まあちょっと権力差はやわらげられてる(だいたい犯罪者なので、視聴者は同情しないと思うが)。で、この先生が実はゲイ。このゲイがトイレにカメラしかけろとか、お前(男)のパンツ寄越せとかいう変態犯罪者なのだけど、まあ対峙してるのが異性愛の変態犯罪者なもんで、とりたててゲイだけが変態という感じはしない。むしろ、異性愛の変態犯罪者が同性愛の変態犯罪者によって同じ目に遭うというのは、ミラーリングとしてすっきりするひとつの方法といえる。

ということで、しずるとさらば青春の光がいかにゲイを描いたか、というのを例にしてみた。ほかにも良い例があれば知りたいけど、誰かおねがいします…。